異形のギターに見た、大リーグボール級の職人魂。

海原天保山 (『逆グルメガイド』主催)

 熱心な読者の方には、もう何ヶ月も新店を紹介しておらぬ中、このような駄文を公開するのは気がひけるのだが、これも海原の多情のなせるわざ、ご勘弁願いたい。実は私の付き人のひとりに、年がいもなくロックギターなぞ弾いておる馬鹿者がおるのだが、彼に同行して先日、日本のギター制作者が一堂に会するというイベントを見に行った。そこでかような異形のギター達を見て大きな感銘を受けたのである。
  私は楽器も料理もまず味、つまり音を追求するのが本道と考えていたのだが、これらを見よ。全く異なる求道がここにある。勘違いしてほしくないのだが、これらのギターが音を無視しているということではない。もちろん楽器制作者として音は重視しているであろう。だが凡百のルシアーが「良い音・美しい仕上げ・リーズナブルな価格」だけに留まっておるのに対して、彼らは『音と関係ない仕様でも、客の要望が無くとも、コストが嵩もうとも』己の思考を貫いているのだ。私がよく例に出す、星飛雄馬の大リーグボール的な生き方とはこういうものを言うのである。

1. 『無法松の一生』はぜひこれで伴奏願いたい
  ♪小倉あー生まあれでー玄界育ちー と思わず口ずさんでしまう素晴らしいペイントが施された逸品。紅白歌合戦での演歌歌手のステージ衣装を思わせる。おそらく三波春夫氏あたりが特注したものであろう。青磁の大皿を思わせる感もあり、女子十二楽坊にも弾いてもらいたい。しかし塗装は徐々に剥げてくるはずだが、そのときにどうなるかは見物だが。

2. 奥ゆかしさこそ和の心
  裏から見て驚いた。このギター、ネックヒールがない。どうやって接続されているのか。考えてみたら単に外にあったジョイント部をボディの中に収めただけのようである。なるほど見苦しいものは風呂敷で包隠す、臭いものに蓋、といった我々日本人の心情に沿ったデザインである。しかも普通に作るよりもはるかに手間もかかるだろうし、修理の際にはさらに大変なことになるだろうな。それでも「見えないところに金をかける」これぞ日本の伝統的美学『粋』ってもんだ。こちとら江戸っ子でい!

3. いとをかし
  2のギターを表から見たもの。やうやう妙になりゆく。トップを少しはすに欠きて、茶色だちたるボディの少し回り込みたる、いとをかし。ハイポジションの演奏性を高めたるも、カッタウェイなきては、役立たぬさへあはれなり。手くび胴に当たるなど、はた言ふべきにあらず。

4. 省資源スタイルのギターづくり
  西洋の職人に教わるまでもなく、法隆寺を作った日本の木工技術は世界最高である。当然、資源としての木の大切さも認識しているのだ。また20世紀の西洋流物質文明は行き詰り、21世紀は環境技術で日本が世界をリードするとも言われておる。この二つがこのギターづくりに具現化しておるではないか。端材を細かく張りあわせてもこの精度、一枚板を使うのに比べてはるかに省資源だ。この崇高なコンセプトの前に「かんじんの音と関係ないではないか」とか「経年変化でねじれや割れが生じないか」などという輩は人類の敵であろう。

5. さらに流通革命も視野に
  このギター、ヘッドに穴が開いておる。第一の理由はむろん木材の効率利用であろう。抜いたあとの端材で小皿ぐらいは作れるであろうからな。しかしよく考えてみればペグも付いてないのだからヘッド全体が不要なのではないか?といぶかりつつ、東急ハンズに寄り陳列棚をながめていたときに疑問が氷解した。あのギターならここに吊るせる、このフライパンのように。それに運搬の際にも天秤棒のようなものにヘッド穴を通せば二人で十本以上のギターを一度に運ぶことも可能だろう。いやよく考えたものである。

6. たらちね
  ギターの形状は女体に喩えられることが多い。豊満な胸と尻、キュッとくびれたウエスト、男はそこに自然と惹かれてしまうのだろう。しかし一般のギターがなぞるのはあくまでステレオタイプな若い女のボディなのだが、この作者はそこに異を唱えたいのだろう。上側のラインを見よ。乳が垂れ、下腹部がはらんだ妊婦のようなライン。あるいは肥満した中年女性のようでもある。ハリウッド女優のような体形だけを美しいという、そんなマッチョなッ女性観に対するアンチテーゼであろう。


※スカドッグの補足:海原氏はこの執筆にあたってルシアの方への取材などは一切していません。したがってここに書かれたそれぞれのギターのデザイン意図などは外見からの類推、そればかりかでっち上げに近いもの。連れていった私としては非常に困惑しております。そもそも単なる食いしん坊の逆グルメ評論家、門外漢の氏がなぜこのような評論を始めたのか、悪い友人に感化されているのではないかと心配です。こんなヒマがあるなら真面目にマズい店の取材に取り組んでほしいものです。
それから先生! 私は馬鹿者よばわりされるゆわれはないです。だいいち私、いつから先生の付き人になったんですか。いいかげんにしてくださいね。