「くどいっ!」。(誰だ笑っとるのは)

 ラーメン業界に名を轟かす、東京は東池袋の名店の暖簾分けである。スカドッグさんが楽器屋「KEY」に立寄ったところ、近くにこの店を発見して興奮した声で電話して来た。さっそく駆けつける。池袋の本店は何度か行ったものの行列がすざまじく、あるいは閉店後であったり休業日だったりで結局ありついたことがない。ラーメン界で有数の有名店、楽しみである。
 さすがに満員ではあるが行列とまでは行かない。すぐ席に着いて注文するのは名物の『つけ麺』、おいおいスカさん何を迷っておるのだ、あの名高い『つけ麺』を食わずして代償軒に行ったとは言えぬよ。あい変わらず優柔不断な男だ、だから要りもしない楽器を買って銭失いするんだ。あれこれ悩まずにヒスコレとデラリバとかいうものを借金してでも買いなさいよ。だいたいあんたがそんなだから息子があんな…

 などと話しながら待つこと数分(けっこう遅い)名物『つけ麺』の登場である。丼にクリーム色に濁ったスープがなみなみ、「よくかき混ぜてくださいね」と店員。しかし海苔が一枚載っているのを混ぜるとは。混ぜてみると底から醤油が浮かんできてマーブル状になる。大きなチャーシュー1枚と煮玉子もスープの底に入っている。ここに来て嫌な予感がする。混ぜるスープから立ち上る匂いときたら何だ。下手なラーメン屋の匂い、いやそれよりも灰汁(アク)のそれに近い、ツンとくどい臭気である。麺はひとまわり小さな器にどさっと無造作に盛られる。なぜざるにうすく盛らないか、麺がくっつくだろう。だいたいスープの具もだ、なぜ細く切って麺の方に載せないのか。冷たいものを熱いダシに漬けて食べるメニューの、それが常套ではないか。なんとも心遣いのない無骨きわまる出し方ではないか。
 さて気を取り直して麺をひとつまみ、うぬ!やはりくっつくではないか。どうするのだスカさん。あれまあスープ丼の横からズルズルと移動させておる。なんとも不細工な、あんたがそんなだから息子が…。しかしそうするしかなさそうだな、食ってみよう。うぬ!思った通り、いやそれ以上に下品な味だ。化学調味料はゼロかほんの少ししか使っていないようだが、どうにも乱暴で田舎くさい、くどくしつこく灰汁のきいた味だ。どうだねスカさん、おやおや目を輝かせてズルズルやっておられるなあ、『うまいじゃないですか』ってこれがかい。くどくないかい?えっ『くどい人間ですから』だって、あんたがそんなだから息子があんな…。まあいい、最後まで食ってからにしよう。問題はチャーシューと煮玉子だ。こんな丸ごとのままでは、ねえスカさん、おやおや持上げて噛みちぎるのかいな。“ボチャン!”ってあんた汁がはねてるよ汚いねえ。
あんたがそんなだから息子があんな…。

 しかしどうにもこうにもスカさんの食べ方しか出来ぬもののようである。その味といい、こんなものをありがたがり一時間以上の待ち時間と700円という高い「代償」を払ってまで食う東京のラーメン好きがわからぬ。今度ぜひ本店で確かめてみたいものだなあスカさん、どう思う。おいおい、あんたこの残ったスープを飲む気かい。こんなにくどくて味の濃いものを、あんた正気なのか。えっ?店員さんなんだい。『これを薄めて飲むのが“通”です』だって?ハハハそりゃ通じゃなくてただのミーハーだろう。これスカさん、
ほんとに、あんたがそんなだから息子があんな…

 うん何?本当にくどいのはワシだって?

※編集部註:
「しょせんラーメンって下品な食いものですからねー。人の好き好きじゃないですかねえ先生。下品だ下品だなんて言うもんじゃないでしょうに。」
「バカモノ!下品な中にもな、『うまいものを食べさせたい』という職人の心が一杯の丼の中に凝縮されたもの、それがラーメンなんだよ。」
「代償軒にはそれが感じられない、と?」
「そうではないか、例え全く同じスープと麺と具でもだな、麺は取りやすくくっつかないようざるに盛り、スープは冷めぬよう深くて口の小さな器に入れ、具は麺といっしょにつまめるように細切りにして麺の上に並べる、それだけのことでかなり美味くなるはず。そんなことは蕎麦やうどんからわかることなのに、なぜあんな出し方ができるのか。客のことよりも暖簾のこだわりを重視しているとしか思えぬわ!」
「そうですか。ところでスカさんの息子さんて何かされたとですか。」

「いや別に、なにもしとらんよ、なーんにもな。ところで君って九州出身?」

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