夏には絶品!「冷やしラーメン」

 巷でよく言われることだが、「汚いラーメン屋はうまい」。この海原はそうも思わぬ が、この格言を信じているラーメン好きも居るらしい。そのような者にはぜひこの店をお勧めしたいのだ。中華料理屋やラーメン屋が少ない南森町で異彩 を放っているのが、商店街の最南端に位置するこの店である。

 テーブルに手をつくと指紋がくっきり残るほど油コテコテで、店主もはたしてどこに何があるのか把握できているはずはないぐちゃぐちゃの店内、いかにものラーメン屋である。すえたような匂いはどこから来るのか、最初はテーブル備え付けの揚げネギの油が古いのだとわかった。次にチャンポンに入っているむきえびがスレスレの古さなのだと感じた。何度か通 ってみるとわかるだろう、個別の商品の問題ではなく(問題はもちろんあるのだが)、店全体がちょっとずつ清潔ではないのである。

 とくに私がおすすめするのは夏場だ。ただでさえいろんな臭いがうずまいている上に、夏季限定メニューの『冷やしラーメン』が出色なのである。そもそも冷やし中華というのはなぜあんなふうに、熱いラーメンとは全く違う味付けと具材になっているのか、読者諸兄は考えられたことがあるか。この海原天保山、この『冷やしラーメン』を食して、目からウロコが崩落したわ。

 普通の醤油ラーメンをそのまま冷たくしたらどうなると思われるか。「うーん、それはちょっとなあ…」その通 り、冷たいスープにはラードは固まってしまうから使えないし、麺だって妙に硬くなってボソボソする。こうなるから冷やし中華はあんなふうなのだった。それなのにこの店の店主は平然と客に食べさせる。
「うまいのまずいの言うな!、冷しラーメンといったら、ラーメンを冷やしたものに決まってるだろ」
という客に媚びないこの勇気、冷したぬ きや冷しきつねにも見習ってほしいものだ(見習うか!)。

 他にも「つくねラーメン」などオリジナルメニューは数多い。店内を清潔に保ったり、材料の新鮮さに心を配ったりするよりも、次々に新しいメニューに挑戦してはコケる。これはまさに芸術の域に達していると言えないだろうか。諸君、この店の『冷しラーメン』を食わずして、まずいラーメンを語るなかれ。

※編集部註:ところがこの店、残念ながら閉店してしまいました。跡地にはこじゃれた感じの居酒屋ができています。あの絶品の冷しラーメンはいずこへ?。(たぶん廃業してるだろうけど)

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