すいません、食させていただきます。

 別にこの海原天保山、鳩山由紀夫になったわけではないぞ。天神橋筋商店街の南のはずれにあるこの店でめしを食えば、この私とてこのようなへりくだった言葉遣いになってしまうのだ。

 まず安い。昼の定食は600円からだが、焼魚・煮魚・だし巻・天ぷらなどの主菜に小鉢とみそ汁、ごはんに香の物がついてこの値段だから、たいしたものだ。味もなかなか。私は魚好きで、とくにサバやカレイの煮付けには目がないのだが、ここの煮魚は本物だ。みそや醤油も吟味されているようで、化学調味料でごまかした、安定食屋とは一線を画すものだ。

 しかしながら、とくにブルーな日には、この店はご遠慮させていただきたい(とまた鳩山由紀夫調)。店名からして山陰地方出身の店主は知人以外には極端に無口だ。奥の厨房で不愉快そうにタバコを吸っている。「いらっしゃいませ」とも言わぬ し、注文してもニコリともしない。配膳のおばさんも声だけは愛想するものの、目が笑ってない。「ひょっとして今は営業時間外なのか」と不安になる。

「あのー、よろしかったらカレイをひとつ食べさせていただきたいのですが…。」
「・・・・・・・ない。」
「ああーそりゃあもうこの時間ですものね。じゃあサバで。」
「・・・・・・・(無言でとりかかる)」
「あっ、いけますか、よかった、ありがとうございます。」
「ハイ、できましたか、これはうまそうでございますねー。食べさせていただきます。」
「おいしゅうございます。あー満足いたしました。不満などめっそうもございません。お勘定を払わせていただきます。600円でございますか。こんな小額でよろしいのですか。申し訳ありませんねえ。ごちそうさまでございました。」

『末長くお店をお続けあそばせっ!。ごきげんよう!
(この一言が言いたかった)。

※編集部註: ところが安くてうまくて気分の悪いこの店は昨年で閉店いたしました。 まことに残念です。まさかこのサイトのせいではないと思うのですが。