ご当地ラーメン全国制覇!「野望の王国」か。

♪ヨコハマ たっそんがれ ホテルのぉー 小部屋あー♪
「おいおい、調子外れの歌を歌うでない、中川。」
「はっ、すみません先生。ついうかれてしまいまして。」
 浮かれるのも至極、今日は横浜へ出張でございます。この間はせっかく中華街へ行きながら、もの珍しさから回転飲茶なるものへ行くと言張ったわがままな先生。今日こそはヘイチンロウ、マンチンロウ、それとも海員閣ですかな。どこでもお供しますぞ。
「さて、今日は疲れたから日帰りにしよう。まだ4時だ。」
「しかし先生、新幹線には8時に乗ればいいですから。」
「いいですからなんだ。そういつもいつも食いもののために足を延ばす、いやしい男ではないぞ、このワシは。今日はさっさと帰るから、新横浜でラーメンでも食って新幹線に乗り込めば良い。ついて来い。」
「はぁー、ラーメンですか…」
 と先生に着いて地下街を歩きしばらく行きますと、着いた先はなんじゃこれは、映画館のような巨大な建物に『横浜ラーメン俗物館』とあるテーマパークであります。
「ほぉー先生、『いつもいつも食いもののために足を延ばす、いやしい男ではない』ねえ。いったいいつこの計画を…」
「なにをブツブツ言っておる、早く金を出せ。二人で600円だぞ。」


 なんと入場料を取る、しっかりテーマパークです。しかし1階の展示場はチンケで見るべきものもありません。さっさと地下へ降りましょう。おお、昭和初期の下町を再現した町並に9軒のラーメン屋が開店しております。札幌ラーメン、旭川ラーメン、熊本ラーメンに、久留米ラーメン、東京、横浜。なるほどこれは博覧会ですなあ。しかしそう何杯も食えないし、迷いますなあ。
「フフッ、中川よ。だからお前の目はふし穴だというのだ。」
「えっ(腰を振りながら扇子を頭上に)♪チャランチャランチャランチャランチャチャ♪ホゥ!“フ・シ・ア・ナ・トゥキョウ!”
「それは“ジュリアナ東京”だ、バカもの。古いギャグを出すな。見てみろ、この食券自販機を、一番上に“ミニラーメン”というのがあるだろうが。これを食えば良いのだ。」
「あなるほど、これなら半分ですから3軒くらいは行けますね。」
「3軒なあ…。全部で9軒あるのに、3軒なあ…。」
「ええいっ、このいやしんぼ。まずどこから行きますか。」
 最初に入ったのは旭川ラーメン、こがしラードとアジの風味が独特です。これはめずらしい。うま味が濃厚ではないところが好感を持てますなあ。続いてもうすぐ閉店するらしい、あのラーメンの鬼がプロデュースしたという八戸ラーメン。ううむ、確かにうまい。しかし上品すぎてもの足りない気もします。久留米ラーメンへ行きましょう。これはしっかりトンコツ豪速球ですなあ。あんまり趣味じゃないですが。
 ミニラーメンといえども半玉。それにしっかりスープを飲み干しておりますから腹はダブダブであります。ごちそうさまでした、そろそろ帰りましょうか。
「さて次はどこのラーメンにするかなあ」
「おいっ!何でまた館内ガイドを見て舌なめずりしておるのだっ!」
「なんだ中川その口のききかたは。トンコツはワシの趣味ではないのだ、最後は東京ラーメンか札幌ラーメンでしめるのが本道だろうが。」
「ええいあんたという人は、ひとりで行きなさいよもう、私はここでラムネでも飲んで待ってますよ。」


 ところが札幌ラーメンを食べようと階段を上がった先生は、しばらくしてしょんぼりと逆の階段から降りて来たのです。
「中川あ、札幌ラーメンすっごい行列で20分待ちだって…」
 急に女子高生のような口ぶりですねるアホ中年でございます。
「え何故でしょうか。他の店は行列はおろか満席にすらならぬガラガラですよ。そりゃよっぽどうまいんじゃないすか。何で先生並ばないのですか。」
「それがだなあ、ワシも列の若者にそう訊いたのだ。すると彼らもここへ来るのは初めてで、どこがうまいのか知らないというのだ。前後の連中もほとんどがそうだ。行列が出来ていたからうまいのに違いないと思って並んだというのだ。アヤツらはバカか。」
「それはまた観光客特有の心理ですなあ、せっかく来たから一番人気のあるものに行かなければ損だと。人が並んでいるなら出し抜かねばと。」
「おう、みごとあっぱれな俗物根性よ。この海原、いやしくもそんな猿や豚どもといっしょに並ぶわけにはいかぬわ、カッカッカ。」
 とか言いながらしっかり五百円玉を握りしめて4杯目の東京ラーメンの店へと行く、ほんとうに『いやしくとも』だなあ、あのお方は。

※編集部註:
「それで先生、結局どこのラーメンが一番うまかったのですか。」
「それはいまのところ東京ラーメンだな。しっかりしたラーメンだ。」
「いまのところ、って何ですか。また行くおつもりですか。」
「あたりまえではないか。まだ食っておらん店もある。今度4軒行けばひととおり食えるだろうが。」
「わざわざ新横浜までそのために来るのですか、なんと酔狂な。」
「いやそれは得意先もあるからのう、仕事で来たついでじゃ。得意先の担当がまた、めぐみちゃんというプリッとした女でのう。あれはワシに気があるな。」
「またそんなこと言ってる。知りあう女性みんな自分に気があるとか言ってるじゃないですか。ほんまにあんたほど俗物な人知らんわ。」

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